研究のSummary

身体認知

1身体性認知神経科学は、認知機能は身体機能が拡張することで新たな階層として理解できるという視点から研究する神経科学である。我々は細胞レベルの研究により、個々の運動、連続運動、連続運動のカテゴリーと運動の情報が次第に抽象的な表現になることを見出した。前頭葉内の機能的な階層性に一致する。

問題解決

2問題解決の脳研究では、目標に至る手順を見出し実行することに関わる神経細胞活動の特徴を明らかにした。カーソル操作による迷路課題でゴールまでの手順を表現する前頭前野には、行動開始前に示す活動と行動開始後に示す細胞活動が存在した。行動開始前の細胞には、最初の一手にかかわる細胞もあるが、2回目、3回目にもかかわる細胞もあり、先読みを表現していると考えられた。またカーソル操作と手の運動とは、細胞活動の上で分かれており、両者には階層的違いが認められた。

動的

3動的情報表現としては、一つの細胞の示す情報が、認知的内容(数)から運動内容(手)に変化したり、最終ゴールの情報が最初の操作の内容に変化したりと、一つの細胞が時間とともに変化する現象が、前頭葉の様々な領域で見出すことができた。一つの細胞は、おそらく一緒に働く細胞が動的に変化し、一人多役を演じていると考えられた。

随意

4随意的行動に関しては、前頭前野では認知操作レベル、運動野では運動レベルと階層的な違いが認められた。以前の研究から、一次野や運動前野、補足運動野など、複数ある運動野が、文脈依存性に活動を変化させることから、随意性も複数の領域の協働作業で表現されていると考えられる。またさらに小脳、基底核などの皮質下の部位も大脳皮質の長期的な活動修飾にかかわっている。

神経計測

5現在の神経科学は、遺伝子工学、電子工学、光学等の技術連携により、様々な神経操作技術が可能になっている。光遺伝学手法はその一つであり、遺伝子工学、光学、電子工学との連携で新しい操作技術次々に生まれている。そのおかげで光操作で選択的に回路をオンにしたりオフにしたりすることがで脳の理解が深まっている。

人間にとって、ゼロの発見は大きな発見でその後の科学・技術の発展を大きく変えました。しかし、サルの頭頂葉の細胞は、ゼロの概念(何もないこと)を二つの様式、デジタル的(ゼロとゼロ以外)、アナログ的(ゼロからの隔たりで活動減少)に表現されてることを発見しました。2015年の論文に詳細は報告しました。

前頭葉の背側運動野は手の運動にかかわる領域として知られていたが、実は足したり引いたりする演算操作にも関わることを細胞レベルで見出した。しかも、細胞に表現された情報は、最初は演算でも、次第に手の運動情報、さらに操作する回数の情報と動的に変化していくことを見出した。つまり、一つの細胞が文脈に応じて複数の役割を柔軟に果たしていることが判明した。

OECD(経済協力開発機構)の孤立の調査とエストニアの大学の自尊心の国際調査の結果を元に作られた図です。傾向として、縦軸の自尊心が低い人ほど横軸の孤立した状況(知人と過ごす時間がほとんどないと答えた人の割合)が高いことを表しています。右下の点が日本であり、孤立状況が高く、自尊心が低いことを示しています。人との関わりが、自己認知と関わること、そして日本の孤立・孤独問題の深刻さを表している。

二つの思考様式の特徴を脳科学の観点からとらえなおし表にした。演劇的手法の特徴はナラティブ思考にある。そこでは、普遍的な知識や規則よりも、各自の経験や気持ち、そして即興性が特徴である。自分以外の多様な視点を理解しようと想像するには、一つに決める収束的思考より、可能性を探索する発散的思考が役に立つ。出来事としてのストーリーの背景に心を読むには、思考様式を切り替えながらアプローチをすることになる。