大学生を中心としたプレイバックシアターグループの設立とその活動
ー演劇的手法×教育を未来につなぐー

宮城教育大学 虫明美喜、東北大学 虫明元

はじめに

 大学生が直面するコミュニケーション力の育成をそれぞれが所属する大学において進めるにあたり、演劇的手法・即興再現劇(プレイバックシアター)を取り入れたワークショップを実施してきた。
 当初は大学の授業内での実践が中心であったが、2021年度からは、JST-RISEXの事業を受託し、大学生世代の孤立・孤独の一次予防に演劇的な実践がどのような効果をもたらすかを検証してきた。この活動の中で、上記授業の受講者を中心に、プレイバックシアターを自ら実践することのできる人材を養成する活動を始め、大学生と同世代の実践者によるグループを構成し、グループとしての活動を始めるに至った。その成立の経過と実際の活動について報告し、その意義について考える。

実践グループ成立まで

  • 2016
    東北大学全学教育の中での「新しい教育」手法としての演劇的手法の実践に申請し、採択を受け、2016年度の医学部学生を対象としたプログラムをスタート
    医学部生募集のためのチラシ
    医学部生募集のためのチラシ
  • 2017
    東北大学の全学教育において全学部の初年次学生を対象として、コミュニケーションを学ぶ授業を展開することが可能となる。
  • 2018~
    多文化共修クラスの一環として学期完結型で春学期・秋学期にそれぞれ授業を開講している。
  • 2021
     JST-RISTEX「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」において発表者らの提案である「演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業」が採択された。
     発表者らはこの事業を推進し、活動がカバーする範囲を拡大していくために、授業受講者の中からワークショップの実践者を育成するプロジェクトに着手する。
     プレイバックシアターの手法が、孤独になりがちな大学生のコミュニティ形成に効果的であると判断されたこと、また、演劇的手法の教育プログラムとしても体系的に整備されていることから、スクール・オブ・プレイバックシアター日本校の協力をあおぎ、仙台市内の大学に呼びかけて参加者を募り、2021年度から計8回の集中トレーニングのセミナーを企画して実行した。
  • 2022~
    1. ● 一回あたりの参加者の平均:14名
    2. ● 2022年3月~2024年8月:集中トレーニングへの参加者累計116名
    3. ● 参加者は東北大学、宮城教育大学、宮城大学、宮城学院大学の現役の学生およびそれらの大学の教員を中心に、口コミや紹介で参加した地方公共団体職員、宮城県以外の大学や施設の職員など多岐にわたる。
    東北大学での授業受講者数_累積
    東北大学での授業受講者数_累積
     この参加者のうちの約半数である61名が、セミナー後も継続してプレイバックシアターの活動に参加する意思を表明し、2022年4月から試行的に活動を始め、2023年4月から「あおばプレイバックシアター」として正式にグループの活動を開始することになった。
     基本的な活動としては、毎月一回、大学構内や仙台市内の会場において、プレイバックシアターの稽古を行い、お互いのスキルアップを図る。また、主要メンバーをセミナー等に参加させるなどして、活動の質の向上を図る。

WS参加者のコメント「学んだこと・良かった点(2回目自由記載)」

  • プレイバックシアターの即興劇や即興で何かを演じるエクササイズが相手の伝えたいことを感じ取ってすぐにリアクションを返す能力が身についた。
  • 多様なアクティビティの中で様々な情報から相手の位置を受取同時に自分の考えも発信していく相手に合わせて演技すること
  • どのように役立つか具体化すると多くの人がWSの意義を理解することができると思います。
  • 他のアクターの様子を見ながら感情を感じ取ること
  • 他人が他人の言葉(物語)を受取りどう表現するか見える。テラーは自分を他人として客観視聴して理解する力 相手や周りの状況に合わせる 表現力 他の役者や観客に自分が伝えたいことをわかってもらうこと
  • 状況に応じてアクションを起こすことが大切だと感じた。
  • 自分の経験したコミュニケーションを客観的に見直せる。コミュニケーションの壁が取り払われる。
  • コミュニケーションにおける物理的な距離を考慮することが大事、コミュニケーションは一人でやるものでもない皆が助け合って成就するものだと感じた。
  • 自分にとって新しい試みに参加していろいろな刺激を受けることができた言葉以外の意思表示についてももっと考えたみたいと思った
  • コミュニケーションのサインがいたるところに有ること
  • 人 物の気持ちを考えることで柔軟な考え方ができるようになると思います 純粋に楽しめた一回目のワークショップでは自分からあまり意識的に参加することはできなかったが2回目は一回目より進んで参加することができ、自分からやってみることという気持ちをもてた。
  • 言葉以外にも注意を向ける点がたくさんある。コミュニケーションにはエネルギーが必要、自分からはやろうと思わないことをやってみることで新たな思考回路感覚を養うことができた。

(コメント一部抜粋)

あおばプレイバックシアターの活動概要

 「あおばプレイバックシアター」の活動開始後、東北大学での上記の授業の一部として実施されるプレイバックシアターの集中授業時、あるいは学会や市内外の高校・大学等で、依頼に応じてワークショップや公演を行っている。

日時 公演テーマ 会場 イベント
2023/4/29 学生生活 東北大学川内萩ホール プレイバックシアタースクール
2023/10/29 高校時代 宮城県仙台向山高校 進学座談会
2023/11/12 友達 東北大学川内萩ホール 東北大学全学教育集中クラス
2024/2/17 香川県立医療看護大学 多大学・多学部学生が交流するPBを活用した参加型授業の取り組み
2024/3/9 東北大学青葉山コモンズ プレイバックシアター集中コース
2024/6/1 東北大学青葉山コモンズ 東北大学全学教育集中クラス
2024/6/29 看護学生 AER 仙台市中小企業活性化センター 日本地域看護学会ワークショップ
2024/8/24 ふるさと 東北大学星稜キャンパス プレイバックシアター集中コース
2024/11/23 東北大学川内萩ホール 東北大学全学教育集中クラス
2025/3/8 東北大学青葉山コモンズ 穏やかな社会変革としての演劇の手法

活動の意義と今後の課題

 高等教育の中に演劇的手法、特にプレイバックシアターをその手法として取り入れることで、その構成員同士のコミュニケーションの質が変化し、彼らにとって、クラスが「コミュニティ」として確かに意識されるようになった。そして、その教育を通して、同世代の学生たちにむけた教育を担う当事者になるメンバーが生まれ、次の世代への活動が始まっていることは、東北大学およびJST-RISTEXの支援による大きな成果の一つとして挙げることができるだろう。
 一方で、学生を中心とするグループであることから、活動の年限が在学中に限られ、そのメンバー構成が流動的となる。また、学内のサークルとも異なるため、活動主体も活動場所も不安定であることは否定できない。
 だが「あおばプレイバックシアター」の活動が始まった今、このグループを拠点に、同世代の若者たち同士がお互いを理解しあえる場を作っていくことを継続する意義は大きい。2026年度以降の「あおばプレイバックシアター」の自律的な活動を目指して、新たな活動母体や次世代の教育について、この一年はさまざまな模索を行っていくことになる。この活動を続けていくことによって、未来に希望をつないでいきたい。